大会長挨拶
第12回日本禁煙科学会学術総会
大会長 春木 宥子
松江記念病院健康支援センター顧問
NPO法人しまね子どもをたばこから守る会理事長
この度、第12回日本禁煙科学会学術総会を、平成29年10月28日(土)~29日(日)の日程で、松江市の「くにびきメッセ(島根県産業交流会)」で開催させて頂くことになりました。私は長年専属産業医として勤務し(現在は嘱託産業医ですが)、健康支援・リスク管理に携わって参りました。在職中よりたばこ対策は大きなテーマでしたが、職域から更に活動を広げるために、平成17年3月に「しまね子どもをたばこから守る会」を立ち上げ、研修会開催と共にいろいろな場を活用して啓発活動を続けてきました。会のメンバーと共にこの度の学会を担当させて頂くことを、大変光栄に存じます。
わが国の行政におけるたばこ対策では、「健康日本21(2000年)」に続いて、成長戦略(2010年閣議決定)、がん対策基本計画(2012年)、「健康日本21(第二次)(2013年)」などでたばこについての目標値が設定されています。労働安全衛生法改正(2015年)でも第68条の2(受動喫煙の防止)として盛込まれ、平成32年までに受動喫煙のない職場を実現することを目標にしています。しかしこれらの目標は現状ではあくまで単なる目標として留まっており、2015年の調査(厚生労働省)によると職場の受動喫煙は実際には上昇・悪化(平成20年:64%→69.4%)しています。昨年9月には厚生労働省から15年ぶりの改訂「たばこ白書」が公表され、喫煙の健康影響を4段階評価し、受動喫煙対策は世界で最低レベルと評価され、屋内全面禁煙などの対策が必要とまとめられました。
東京オリンピック・パラリンピックを2020年に控え、IOCとWHOの協定により、開催地では罰則付きの受動喫煙防止法ないし条例の整備が求められていることから、厚生労働省は受動喫煙防止の立法化を目指す案を公表するなど内容を検討中です。本年4月、WHOの担当部長が東京都内の飲食店などを視察し、「世界はすでに49カ国が屋内完全禁煙法を定めている。厚生労働省が提案している飲食店の一部に喫煙室を設ける分煙では効果がなく、現状では日本は受動喫煙規制において最下位から2番目に低いグループに入る」と強調されました。1997年子どもの環境保健に関する8か国環境大臣会合「マイアミ宣言」を受けて日本でも始まっている「エコチル調査」、あるいは2015年国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs、2030年までの目標)の中でも、たばこの煙は対応すべきリスク要因として採り上げられています。
職場の受動喫煙をゼロにするためには、トップの宣言がないと対策はなかなか進みません。今回はトップを動かす『健康経営』を採り上げ、「健康経営で生涯現役!~『たばこ白書』を活かして全国発信~」をテーマと致しました。すでに受動喫煙ゼロを達成し実績を上げている企業のトップ、あるいは医療関係者等の先進的な取組みが、さまざまな領域で協働して展開され、健康日本21の目標達成とともに、きれいな空気環境のもと、生涯現役でいきいきと働き生活できる未来となることを願っております。
会員の方はもとより、企業関係者・一般の方々、多くのご参加を賜り議論を深め、皆様方の今後の一層のご活躍に資することができる会となりますよう祈念する次第です。